梅若忌見染め(うめわかき みそめ)
江戸の絵師・菱川重信は、美人の女房・お関と、生まれたばかりの男の子・真与太郎と三人で柳島に住んでいました。梅若詣での途中、お関が酔っ払った侍に絡まれているのを偶然、浪人の磯貝浪江が助けます。お関を見初めて横恋慕。お関目当てに重信の弟子におさまります。
お関口説き(おせきくどき)
重信に南蔵院の天井に龍の絵を描く注文が入りしばらく家を空けることになります。浪江は足しげく師匠宅へ通い、お関や女中のご機嫌をとります。ある日仮病を使って泊めてもらった浪江はここぞとばかりお関にせまります。お関は頑としてはねつけますが、赤子を殺すといわれていやいや枕を交わします。こういうことは一回では済まないもの、二度が三度四度と重ねるうちにお関は浪江に好意を抱くようになり、ついには女中を使いに出して自分から浪江を誘うようになります。
早稲田料理屋(わせだりょうりや)
お関を自分の女にした浪江。しかし絵を描き上げて重信が帰ってきたらふたりの仲は終わってしまう。ならば重信を殺してしまおうと考えます。
浪江の前に浪江の昔の悪事を知るうわばみ三次が現れます。金の無心にきたのです。仕方なく三次に金を渡します。さらに下男の正助を馬場下町の料理屋に呼び出し脅かして仲間に引き入れます。
落合蛍見物(おちあいほたるけんぶつ)
正助は落合の蛍見物に重信を連れ出し、飲めない重信に酒を呑ませます。夜道を寺へ戻る重信をなむえらが襲い掛かり重信の命を奪います。
寺まで逃げ帰ってきた正助だが、殺されたはずの重信がいつもの通り絵を描いているので驚きます。やがて龍が描き上がると、重信の姿はかき消えてしまいます。
重信が死んだその後、四十九日が過ぎると浪江は重信の後釜に座り、お関と夫婦になります。お関は浪江の子を身ごもります。
角筈村十二社滝亡霊(つのはずむらじゅうにそうのたき)
お関は乳が出なくなり真与太郎が泣きぐずります。真与太郎が邪魔になった浪江は、正助を脅かして真与太郎を殺せと命じます。正助は悩み苦しみますが新宿十二社の滝に真与太郎を投げ込みます。すると、真与太郎を抱いた重信の亡霊が現れます。「この真与太郎を養育し、敵を討って、わが無念をはらせばお前を許す」 という重信の亡霊の言葉を聞いて、正助は改心する。
そこへうわばみ三次が現れます。浪江から正助と真与太郎を殺すように言われてきたのです。滝の中の大立ち回りになります。小心者の正助は必死で抵抗します。三次は重信の亡霊によって滝壺の中へ引きずり込まれ、正助は真与太郎を抱き走って逃げていきます。
赤塚村乳房榎(あかつかむらちぶさのえのき)
真与太郎を連れて逃げた正助は、生まれ故郷の練馬の在、赤塚村の松月院の門番に落ち着きます。松月院の境内には、乳房の形をしたコブのある榎があり、そのコブからしたたる甘い雫は、乳房の病を治し、乳のでない女も乳が出るようになり、しかもその雫は、乳のかわりとなって、子どもを育てるという霊験があります。正助は榎の雫を乳代わりにして与え、真与太郎を育てます。霊験あらたかな松月院の榎は「乳房榎」と呼ばれ、江戸中の評判となります。
その頃、お関は浪江の子を産んだものの、乳が出ないために死なせてしまいます。またお関は、重信の亡霊のたたりで乳房にはれ物が出るようになり苦しみ、ついには狂い死にします。
葬式を終えた浪江は、正助と真与太郎が生きていることを知り、殺そうと松月院に現れますが、正助と五歳になった真与太郎は、重信の亡霊に助けられて浪江を討ち、その無念を晴らします。