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魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)

妹を殺された悲しみと怒り!断酒の禁を破って酒乱全開の宗五郎

本外題:

新皿屋舗月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)

カテゴリー:

世話物

主な登場人物:

魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)
江戸・芝片門前(しばかたもんぜん)の魚屋の主人。酒を呑むと見境なく暴れる酒乱癖の持ち主。神様に禁酒を誓いをたてている。
おはま(おはま)
宗五郎の世話女房
お蔦(おつた)
宗五郎の妹。器量よしで気立てもよく、主計之助に見初められ妾奉公する。偶然に典蔵らの悪事を知ったために、不義の濡れ衣を着せられて主計之助に殺される。
三吉(さんきち)
宗五郎の店で働く奴。気のいい若者。
太兵衛(たへえ)
宗五郎とお蔦の年老いた父親。
岩上典蔵(いわがみてんぞう)
磯部家の使用人。主君・主計之助を酒色漬けにしてお家の乗っ取りを企んでいる。お蔦に横恋慕している。
浦戸十左衛門(うらとじゅうざえもん)
磯部家の家老。思慮のある人物。
浦戸紋三郎(うらともんざぶろう)
十左衛門の弟。典蔵に襲われたお蔦を助ける。逆恨みした典蔵にあらぬ話をでっち上げられ、主君にお蔦との不義を疑われてしまう。
磯部主計之助(いそべかずえのすけ)
旗本の殿様。酒癖は宗五郎と同様に悪い。酒に酔ってカーッとしてお蔦を無残に手討ちにした。酔いが醒めた後は深く反省し、宗五郎たちに謝罪する。

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作品の解説:

1883(明治16)年5月に東京の市村座が初演で作者は河竹黙阿弥。五代目尾上菊五郎が「酒乱の役をやってみたい」との要望に応えて黙阿弥が書き上げた世話物です。本外題の「新皿屋敷」は怪談「番町皿屋敷」からとっているように、ストーリーの前半では、お屋敷に奉公に出ているお蔦が、無実の罪で酒に酔った殿様に手討ちにされ井戸に沈められてしまいます。

現在では、通しでの上演もありますが、後半の「魚屋宗五郎内」「磯部邸玄関前」「同庭先」だけの上演がもっぱらです。妹・お蔦が殺されるいきさつを描いた前半のストーリー・あらすじがわかっていると、後半の展開もすっきりと飲み込めます。

ストーリー・あらすじ:

序幕
弁天堂・お蔦の部屋

主人公(魚屋宗五郎)の妹・お蔦(おつた)は、旗本の磯部家の殿様・主計之助(かずえのすけ)に見初められて妾奉公をしています。おかげで借金苦だった宗五郎の家は大助かり、お蔦も可愛いがられて、お殿様にはたいへん恩義を感じています。

一方、磯部家では使用人・岩上典蔵が兄(もしくは父)吾太夫が悪だくみ中、家老の浦戸十左衛門を殿様から遠ざけて実権を握ろうとしています。しかも典蔵はお蔦に横恋慕。お蔦が殿様より借り受けた家宝の茶碗を盗み出して、それを利用してお蔦を自分のものにしようとしています。

茶碗を盗み出して来た典蔵が弁天堂に現れます。突然、猫に飛びつかれ茶碗を割ってしまい、弁天堂の床下に割れた茶碗を隠します。

そこへお蔦が愛猫を探しに来ます。典蔵はここぞとばかりお蔦に言い寄るが、お蔦に拒絶されます。逆上した典蔵はお蔦を無理やり手込めにしようと当て身を「えい!」。悲鳴を上げて気絶するお蔦。典蔵はお蔦の帯を解き始めます。

悲鳴を聞いて家老の息子・浦戸紋三郎が駆けつけます。隠れる典蔵。気が付いたお蔦は紋三郎に礼を言い、実は典蔵らの悪だくみを聞いてしまったと打ち明けます。

隠れていた典蔵はまずいと思い、灯籠の灯りを吹き消し闇の中「不義もの」と叫び、二人に不義密通の罪をきせようとします。そして典蔵は逃げようとするお蔦から帯を奪い取ります。

部屋に戻ったお蔦は腰元のおなぎに、典蔵に帯を奪われたことを話します。もはや不義の嫌疑を晴らすことは難しく、自分はもう助からないだろうと嘆くところへ、殿様の火急のお召しがきます。

二幕目
磯部邸井戸館詮議

典蔵と吾太夫兄弟は、お蔦と紋三郎に不義密通の罪をきせ、二人を殺してしまおうしめし合わせます。殿様・主計之助(かずえのすけ)は酒癖が悪いので、酒を呑ませて殿様を焚き付けます。

主計之助(かずえのすけ)は、お蔦と紋三郎が不義を犯したとは信じられないが、割れた茶碗が弁天堂の床下から発見されたと聞くと動揺し始めます。

お蔦が呼び出され詮議がはじまりますが、お蔦は不義を認めません。

主計之助(かずえのすけ)は酒を飲まされて酔いがまわってきます。裏切られたという思いが強くなり、怒りを募らせていきます。酒のせいで次第に怪しくなっていく主計之助、愛しさ余って憎さ百倍、お蔦を折檻します。しかしお蔦は頑として不義を認めようとはしません。ついに見境がなった主計之助は、お蔦を切り捨て、亡骸を庭の井戸に放り込んでしまいます。

殺されてしまったお蔦は、幽霊となって井戸の上に浮かびます。

三幕目
芝片門前 魚屋宗五郎内

お蔦の実家、宗五郎の家、芝片門前の魚屋では、父親・太兵衛、女房のおはま、奴の三吉らが皆沈み込んでいます。お蔦が不義を犯したかどでお手討ちにされたと知らされたからです。帰ってきた宗五郎に磯部様に談判に行くべきだとみな口々に言います。

お手討ちになるにはきっとお蔦にそれ相応の落ち度があったに違いない、磯部のお殿様にはさんざん世話になっているので、めったなことは言ってはならないと宗五郎は皆をなだめます。

そこへお蔦に仕えていた腰元のおなぎが弔問に訪れ、見舞いの酒樽が届けられます。おなぎは、お蔦が濡れ衣をきせられて折檻された挙句に殺されたと話します。一同は驚き、悲しみと怒りで溢れます。

宗五郎はたいへんな酒乱癖の持ち主で、金毘羅様に断酒の誓いをたてているのですが、これを聞いてはもう呑まずにはいられない、とおなぎが持ってきた酒に手を出そうとします。家族の皆も無理はないと容認します。

宗五郎が酒を呑み始めます。最初の一杯はグイと一気に飲み干し、二杯目は遠慮がちに二度に分けて飲みます。酔いがそろっとまわってきたら今度はお銚子を取り上げ三杯目。ついには酒樽ごとひったくって、周囲が止めるのも聞かずに酒をあおり始めます。二升樽はあっという間に飲み干されてしまいました。

酒乱全開の宗五郎。「矢でも鉄砲でも持ってこい」と人が変わったように大暴れで、おはまや三吉を突き飛ばし、酒樽を片手に磯部のお屋敷によろよろ殴り込みを掛けにいきます。

磯部屋敷玄関

完全に酔っぱらっている宗五郎が磯部の屋敷に暴れ込みます。恨みつらみをまくしたてて大暴れの宗五郎は、家来たちに取り押さえられ縛り上げられてしまいます。後を追ってきたおはまが許しを乞いますが、典蔵に無礼討ちにされそうになります。

そのとき家老の瀬戸十左衛門が止めに入ります。宗五郎は十左衛門に思いの長けをぶちまけると、十左衛門は「悪いようにはしない」と宗五郎を納得させます。酔いがまわってきたのか宗五郎はその場で眠り込んでしまいます。

磯部屋敷庭先

目を覚ますとお屋敷の庭先にいる宗五郎。酔いが醒めたら何も覚えていない。おはまが成り行きを話すと、ばつが悪くなり縮みあがります。

そこへ磯部のお殿様・主計之助が現れます。手討ちになるかと覚悟を決める宗五郎。ところが主計之助はお蔦を殺してしまったことを手をついて詫びます。宗五郎に弔意金を受け取ってもらいたい、父の太兵衛には生涯二人扶持を出すといいます。

そしてお蔦を罠にはめた岩上典蔵の悪事は暴かれ、主計之助自らが成敗すると約束します。宗五郎はわだかまりをとき、主計之助に礼をいうのでした。

見どころ:

宗五郎の酔っ払う様が見どころです。

「今の話をきちゃあ、酒でも呑まずにやぁいられねぇ」

腰元のおなぎから、妹のお蔦がお手討ちになったいきさつを聞いて、断酒している宗五郎は憐れな妹をおもい、酒を呑みたいと言い出します。
酔いがまわってくると、殿様の理不尽さに、悲しさが次第に怒りに変わっていきます。酔いが増すとともに怒りが増長し、ついに正常な意識を失っていきます。この宗五郎の心情の変化が面白いところです。

酒の飲みっぷりも役者の見せ場ですが、酔って前後不覚になった状態は、いわば雑念がなくなった純粋無垢の精神状態で、そのとき妹をおもう兄の気持ちが純粋に表現される場面です。

名台詞:

(酒樽を片手に花道で見栄を切る宗五郎)

『さぁ 矢でも鉄砲でも持ってきやがれ やい 何だってお蔦を殺した 誰にことわって殺した 』

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