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暫(しばらく)

成田屋・團十郎家代々のスケールの大きな荒事芸が楽しめる超人気演目

本外題:

暫(しばらく)

カテゴリー:

歌舞伎十八番

主な登場人物:

鎌倉権五郎景政(かまくらごんごろう かげまさ)
【主役】加茂家の忠臣。
清原武衡(きよはらのたけひら)
【悪玉】中納言。歌舞伎の役柄では「公家悪(くげあく)」と呼ばれ、皇位をわがものにしようと目論む身分の高い公家の悪役のこと。「しばらく」の掛け声を受ける「ウケ」とも呼ばれている。
加茂次郎義綱(かものじろう よしつな)
【善人】「太刀下(たちした)」。今にも斬られそうになっている善人の役柄。義綱は加茂家の重宝である「探題(たんだい)の印」(国守の長官の印)紛失したため謹慎中であり、目下探しているところ。
桂の前(かつらのまえ)
【善人】加茂次郎義綱の婚約者。
鹿島入道 震斉(かしまにゅう どうしんさい)
【脇役】鯰坊主(なまずぼうず)、清原武衡の臣下。道化方(どうけかた)の役柄。
那須妹 照葉(なすのいもうと てるは)
【脇役】女鯰(おんななまず)、清原武衡の臣下だが実は善玉側のスパイ。
成田五郎(なりたごろう)
【脇役】清原武衡の家来の中では一番の強者。
腹出し(はらだし)
【端役】赤っ面と呼ばれる真っ赤な化粧をして太鼓腹を出した奴(やっこ)たち。清原武衡の家来。

ストーリー・あらすじ:

舞台は鶴岡八幡宮、清原武衡が関白の宣下を受けるところ。天下を手中に収めたかのように思い上がった様子。鯰坊主の震斉、女鯰の照葉、成田五郎ら臣下たちが居並ぶ。

そこへ加茂次郎義綱が許婚の桂の前たちを連れ立って登場する。朝廷の繁栄を祈願するため大福帳(商家で使われる帳簿)を掛額に収めて奉納にきた。

加茂家をかねてからこころよく思っていない武衡は義綱に難くせをつける。「商人が使う卑しきものを奉納するとは神社を冒涜するのか」と掛額を引きおろし、はては「桂の前を差し出して家臣になれ」などと無理難題を浴びせる。
うんと言わぬ「義綱」に腹を立て「ならぬなら首をはねてしまうぞ」と腹出したちに命じて義綱ら一同を斬り殺そうとする。

まさに絶体絶命の瞬間、花道の登場口、揚幕(あげまく)の向こうから「しばらく!」と大きな声。ムカデのようなカツラ(車鬢(くるまびん))、真紅の筋隅(すじくま)、柿色の凧のようなものがついた巨大な衣装をまとい、2mを超える大太刀を差した恐ろしげな大男が登場する。

驚く敵方が名前を尋ねると、男は花道の七三(しちさん)まで来て立ち止まり「鎌倉権五郎景政」と名乗る。

思わぬ邪魔者で苦々しい武衡は「追い払え」と命令する。家来たち(鯰坊主・腹出し・成田五郎など)が代わる代わる、おどしたりなだめたり、力づくでかかったりするが、男はびくともせず、ずんずん舞台中央まで進む。そして鎌倉権五郎は武衡が奉納した宝剣はニセモノで朝廷を呪う仕掛けがしてあるとか、加茂家が探している「探題の印」を盗んだのは武衡の者だ、今すぐ返せと武衡の悪事を暴き立てて詰め寄る。

すると急に、女鯰の照葉が寝返る。実は女鯰は始めからスパイ。いつの間にか「探題の印」を奪い、宝剣もホンモノを見つけ出していた。女鯰は印と宝剣を鎌倉権五郎に渡す。家宝が手元に戻り、御家は安泰と喜ぶ加茂家一同。

最後の悪あがきで討ちかかってくる敵方を、鎌倉権五郎は大太刀を一振りなで斬りにして「弱虫めら」と捨てぜりふを残して、意気揚々と花道を引き上げて行く。

解説:

「暫」はストーリー(筋書き)は単純だが、歌舞伎的に演出された様式とその迫力を楽しむ演目。 江戸歌舞伎の1年間の興行の始まりは11月の「顔見世(かおみせ)」だった。役者たちが舞台で一堂に会し、一座の新しい顔ぶれを観客に披露する年中行事で、「顔見世」では悪人に殺されそうになる善人を、「しばらく」の声とともに正義の味方が登場し、窮地を救う場面が組み込まれる習わしがあった。明治に入り、この場面を独立させて1幕ものとなったものが「暫」。市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)お得意の「荒事(あらごと:荒々しさを誇張して演じる演技)」で演じられる役柄で、市川宗家「成田屋」のお家の芸である「歌舞伎十八番(かぶきじゅうはちばん)」の1つに数えられている。

見どころ:

鎌倉権五郎が登場後に名を名乗る場面。ここでは「つらね」(掛詞や~づくしなどを用いた節回しのある長台詞)で自分の経歴、歌舞伎十八番の由来、なぜ神社に大福帳を奉納することがありなのかを滔々と語る。

名台詞:

(義綱たちが首を斬られそうになった時に鎌倉権五郎が登場する。)

『 しばらくぅ~!、しばらく、しばあら~くぅ~~~!』

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