舞台は鶴岡八幡宮、清原武衡が関白の宣下を受けるところ。天下を手中に収めたかのように思い上がった様子。鯰坊主の震斉、女鯰の照葉、成田五郎ら臣下たちが居並ぶ。
そこへ加茂次郎義綱が許婚の桂の前たちを連れ立って登場する。朝廷の繁栄を祈願するため大福帳(商家で使われる帳簿)を掛額に収めて奉納にきた。
加茂家をかねてからこころよく思っていない武衡は義綱に難くせをつける。「商人が使う卑しきものを奉納するとは神社を冒涜するのか」と掛額を引きおろし、はては「桂の前を差し出して家臣になれ」などと無理難題を浴びせる。
うんと言わぬ「義綱」に腹を立て「ならぬなら首をはねてしまうぞ」と腹出したちに命じて義綱ら一同を斬り殺そうとする。
まさに絶体絶命の瞬間、花道の登場口、揚幕(あげまく)の向こうから「しばらく!」と大きな声。ムカデのようなカツラ(車鬢(くるまびん))、真紅の筋隅(すじくま)、柿色の凧のようなものがついた巨大な衣装をまとい、2mを超える大太刀を差した恐ろしげな大男が登場する。
驚く敵方が名前を尋ねると、男は花道の七三(しちさん)まで来て立ち止まり「鎌倉権五郎景政」と名乗る。
思わぬ邪魔者で苦々しい武衡は「追い払え」と命令する。家来たち(鯰坊主・腹出し・成田五郎など)が代わる代わる、おどしたりなだめたり、力づくでかかったりするが、男はびくともせず、ずんずん舞台中央まで進む。そして鎌倉権五郎は武衡が奉納した宝剣はニセモノで朝廷を呪う仕掛けがしてあるとか、加茂家が探している「探題の印」を盗んだのは武衡の者だ、今すぐ返せと武衡の悪事を暴き立てて詰め寄る。
すると急に、女鯰の照葉が寝返る。実は女鯰は始めからスパイ。いつの間にか「探題の印」を奪い、宝剣もホンモノを見つけ出していた。女鯰は印と宝剣を鎌倉権五郎に渡す。家宝が手元に戻り、御家は安泰と喜ぶ加茂家一同。
最後の悪あがきで討ちかかってくる敵方を、鎌倉権五郎は大太刀を一振りなで斬りにして「弱虫めら」と捨てぜりふを残して、意気揚々と花道を引き上げて行く。