「賀の祝」は菅原伝授手習鑑の三段目の切にあたり、車引の段の後になります。舞台は菅丞相の下屋敷のある摂津国。いなかののんびりとした春の一日が、父親の70歳の賀の祝というおめでたい出来事のはずなのに、菅丞相の流刑という大渦の飲まれ、桜丸切腹の悲劇で暮れていきます。
歌舞伎の人気演目のストーリー、あらすじを初心者にもわかりやすく紹介しています。
歌舞伎の魅力を知れば鑑賞の楽しみ方も拡がります。
三大名作のひとつ!
讒言により太宰府へ流刑された菅原道真にまつわる悲劇と奇跡の物語。
① 加茂堤 ② 筆法伝授 ③ 道明寺 ④ 車引 ⑤ 賀の祝 ⑥ 寺子屋
菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
三大名作
「賀の祝」は菅原伝授手習鑑の三段目の切にあたり、車引の段の後になります。舞台は菅丞相の下屋敷のある摂津国。いなかののんびりとした春の一日が、父親の70歳の賀の祝というおめでたい出来事のはずなのに、菅丞相の流刑という大渦の飲まれ、桜丸切腹の悲劇で暮れていきます。
摂津国の菅丞相の下屋敷。屋敷を守る三つ子の父・百姓の四郎九郎は70歳の賀を機に名前を菅丞相の勧めで「白太夫」と改めます。今日は賀の祝に3人の息子とその女房達が集まってくる日です。まだ息子達は来ていません。八重(桜丸の女房)、春(梅王丸の女房)、千代(松王丸の女房)が先に来て、仲睦まじく話しをしています。白太夫は息子達が来ないので、氏神様をお参りに出掛けることにします。
やがて梅王丸と松王丸が到着します。吉田社での喧嘩騒ぎ(車引より)のこともあって、女房達の制止も聞かずに、早々に取っ組み合いの喧嘩を始めます。そして丞相様の大切な桜の木を折ってしまいます。
そこへ白太夫が帰ってきます。桜の木を折ったことを叱られると思った二人でしたが、白太夫はなぜか何も言いません。
梅王丸は「九州へ行って丞相様にお仕えしたい」願い出ますが、白太郎に「それは年寄りの私がする。それよりも行方の分からない御台様や菅秀才様を探してお守りしろ」と叱られます。松王丸は「時平に忠義を尽くしたい。敵となるから勘当してくれ。」という。白太郎は怒り、松王丸は千代とともに追い出される。叱られた梅王丸も春と一緒に出ていく。
一人残された八重の前に、奥から桜丸が現れます。桜丸は菅丞相の流刑の原因をつくってしまったことで、死んでお詫びする覚悟です。早くから来てそのことを父親・白太郎に打ち明けたのですが、何とか引き止められて奥で控えていたのでした。白太郎は何とか息子の桜丸を助けられないかと、氏神様にご神託を伺いに行ったが、桜丸が助かるようなお告げは出なかった。
白太郎が落胆して帰ると桜の木は折れている。これはもうどうにもならない宿業か、と悲嘆にくれる白太郎。やがて桜丸は脇差を腹に突き差し、喉笛を切って自害して果てます。八重も悲しみに暮れ、あとを追おうとしますが、梅王丸夫婦が現れてそれを止める。桜丸が来ないことや、丞相秘蔵の木が折れたのに理由を聞こうともしなかった父親の態度に不審を抱きこっそり戻っていたのでした。白太郎は後を梅王丸に頼み、丞相のもとへ旅立っていきます。
菅丞相は筑紫の配所で心静かに日々を送っていました。白太郎がお側に仕えています。安楽寺に参詣し梅が咲いている夢を見たと白太郎に話す丞相。そこへ梅王丸が、時平が差し向けた暗殺者・鷲塚平馬と斬り合いながら乱入してきます。平馬を取り押さえる梅王。丞相にとって梅王丸との久しぶりの再会です。「梅は飛び桜は枯るる世の中に何とて松のつれなかるらん」と詠む。(「梅王が筑紫へ飛んできてくれた、桜丸は自害してしまった、この丞相の窮地に松王だけがつれないはずはない」)と上機嫌の丞相さまです。
ところが平馬の口から時平の天下を覆そうとする陰謀を聞くと、丞相の顔色は変わり怒りに満ちていきます。梅の枝で平馬を打つと平馬の首が落ちます。「雲に乗る雷となって、都に上り、謀叛人どもを引き裂いてくれよう」と、白太夫たちが恐れ慄く中、突風とともに天神と化し、天へと昇っていきます。