★助六の登場、助六、意休を挑発する
お待ちかねの助六が登場する。花道でたっぷりと見栄をきると、花魁たちは「やんや、やんや」と喜び一斉に煙管を手渡す。助六が両手いっぱいに煙管を受け取る。それを見て意休も煙管を所望するが一本も残っていない。すると助六は「煙管の用なら一本貸そう」と足の指に煙管をはさんで意休の前に突き出す。怒りを面に表わさずこらえる意休。さらに悪態をついて追い打ちをかける助六。出くわした意休の子分に頭からうどんをかぶせたり、意休の頭に下駄をのたりやりたい放題で刀を抜けと迫る。さすがの意休も刀を抜きかけるが、挑発に乗らず三浦屋の中へ消える。残される助六。
★白酒売(兄)の登場、兄に喧嘩の指南
人がいなくなったのを見計らい白酒売が助六を呼び止める。無造作に呼ばれて「俺を誰だと思っているんだ」と啖呵を切る助六。白酒売りを引っ張りだして見ると、それは助六の兄、曽我十郎祐成(すけなり)だった。弟の助六(曾我五郎時致)が喧嘩に明け暮れているのを聞きいさめに来たという。助六は、喧嘩は親孝行のためだ、紛失してままの源氏の宝刀・友切丸の捜索のため、他人に刀を抜かせようとわざと喧嘩を吹っかけていると真実を明かす。弟の話を聞いて、兄はわけも聞かずにいさめたことを謝り、自分も一緒に刀を探すといいだす。喧嘩の指南を助六から受けるが全く迫力がなくておかしいだけ。そんな二人は通りかかる田舎侍や通人に喧嘩を吹っかけ股くぐりをさせ腰の刀を調べる。ここでは相手の役者がアドリブを入れたり観客を笑わす場面。
★満江(母)の登場 助六に紙衣を着せる
揚巻が編み笠を被った武士と一緒に店から出てくる。助六は、揚巻が自分以外の男を連れていることに腹を立て喧嘩腰で武士に悪態をつく。編み笠をを取ろうとして笠の中をのぞくと、驚きのあまり身を縮めてしまう。それは母・満江(まんこう)だった。母もまた息子を心配して揚巻に会いに来たのだった。兄に促され「友切丸」捜索のためだと同じ説明をする助六。満江は納得したが、持ってきた紙衣(かみこ)を助六に着せて喧嘩しないことを約束させ、兄十郎を連れて帰る。
★意休が刀を抜く 友切丸を発見
再び店から出てきた意休。揚巻は助六を自分の打掛の裾の中に隠す。助六の存在に気付かずに揚巻を口説き始める意休。その足をつねる者がいる。揚巻は鼠のしわざとうそぶくが、意休は助六だと見破る。「そのような根性で大願成就はするものか。(曽我五郎)時致の腰抜けめが、親不孝者」と助六の本名を口に出した。意休は初めから助六の正体を知っていたのだ。扇で打ち据えて説教する意休、母の紙衣を大事に思い打たれるままになる助六。意休は三本足の香炉台の前に立ち「この香炉台のように、曽我の兄弟三人が互いに心を合体させたら倒れない、兄弟そろって源頼朝に背くなら力になるぞ、離れ離れとなるならばこれこのとおり」と刀を抜いて真っ二つにする。助六は素早く抜かれた刀の銘を読むとそれこそ探していた「友切丸」。いうだけ言って三浦屋に消えていく意休。助六は後を追おうとするが揚巻に制止され、出てくるところを待ち受けるよう耳打ちされ頷く。刀は確かに貰い受けるぞと意気込みながら花道を引き込む助六。舞台では助六を見送る揚巻、幕が引かれる。
『 いかさまなぁ。この五丁町(ごちょうまち)へ脛(すね)をふん込む野郎めらは、おれが名を聞いておけ。まず第一におこりが落ちる。まだいいことがある。大門をずっと潜るとき、おれが名を手のひらへ、三べん書いてなめろ。一生女郎にふられるという事がねえ。見かけは小さな野郎だが、胆が大きい。遠くは炭焼売炭(すみやきばいたん)の歯っかけ爺い、近くは山谷の古やりて梅干婆にいたるまで、茶飲み話の喧嘩沙汰、男達の無尽の掛け捨て、ついに引けをとったことのねえ男だ。江戸紫の鉢巻に、髪は生締め、それぇ、刷毛先の間から覗いてみろ。安房上総(あわかずさ)が浮絵のように見えるわ。相手がふえれば竜に水、金竜山の客殿から、目黒不動の尊像まで御存知大江戸八百八町に隠れのねえ、杏葉(ぎょよう)牡丹の紋付も、桜に匂う仲の町、花川戸の助六とも又、揚巻の助六ともいう若い者。間近くよって、面像(めんぞう)おがみ奉れ。』
『意休さんでもない、くどいこと言わしゃんす。お前の目を忍んで、助六さんと逢うからは、仲の町真中で悪態口はまだなこと、 叩かれようが踏まれようが、手にかけて殺されようが、それが怖うて間夫狂いがなるものかいな。慮外ながら揚巻でござんす。
男を立てる助六が深間、鬼の女房にゃ鬼神がなると、さあ、これからは悪態の初音。 もし、意休さん、お前と助六さんを、こう並べて見る時は、 こっちは立派な男振り、そっちは意地の悪そうな顔つき、たとえて言わば雪と墨、硯の海も、鳴門の海も海という字は一つでも、
深いと浅いは客と間夫、さぁ、間夫がなければ女郎は闇、暗がりでみても、お前と助六さん、取り違えてなるものかいなァ。 たとえ茶屋船宿の意見でも、親方さんの詫び言でも、小刀針で止めぬ揚巻が間夫狂い。
さぁ切らしゃんせ、たとえ殺されても助六さんのことは思いきれぬ。意休さん、わしにこう言われたらよもや助けてはおかんすまいがなァ。さぁ、切らしゃんせ。
』