渡海屋(とかいや)
義経一行は九州へ船で逃れるため、摂津(大阪)大物浦の船宿・渡海屋に密かに逗留し、天候の回復を待っています。鎌倉より相模五郎(さがみ ごろう)が来て義経を探索しようとしますが、渡海屋の主人・銀平と女房のおりうの二人に追い払いわれます。
銀平は義経に一刻も早く船出することを勧めます。しかし実は銀平は合戦で死んだはずの平知盛で、義経を討ち取ろうと計略しています。銀平の幼い娘・お安は安徳天皇で、女房のおりうは天皇の乳母・典侍の局(すけのつぼね)です。嵐の中へ義経を船出させて、海上で戦いを挑みます。自分たちを幽霊に見せかけて義経の目をくらませようと、銀平らは白装束に白い鎧を着て義経の後を追います。
大物浦(だいもつのうら)
浜で戦況を見守る安徳帝と典侍の局、女房たち。知盛は奇襲を掛けたつもりだったが、実は義経はそれを早くから見破っていたのです。沖に見える船の様子や家来の知らせで、帝と局は戦いに敗れたことを知ります。覚悟を決めて自害しようと局が帝を抱いて入水しようとしたとき、背後に義経らが現れて帝と局を押し留め、捕えて渡海屋の中へ入って行きます。
全身に矢を受け重症の知盛が帰ってきます。帝と局を探すと、帝と局を従えた義経が現れます。知盛はなおも立ち向かいますが、帝に「これまで面倒を見てくれた知盛の情け。今自分を助ける義経の情け。どちらも有りがたい。義経を恨みに思うな」と帝が声を掛けます。局はすきを見て持っていた懐剣で自害してしまいます。帝を義経に託し死んでいく局。
言葉を失う知盛。これまでの苦難を振り返り、父の平清盛の悪行の報いだと悔やみ、義経への恨みが消えていきます。知盛も帝を義経に託し、船で海に出ると碇を担ぎ身を投げます。