道行初音旅(みちゆきはつねのたび)
義経が吉野にいるとの噂を聞き、静御前はひとり吉野へ向かいます。義経より預かった初音の鼓を打っていると、途中ではぐれた佐藤忠信が現れます。忠信は義経から賜った兜を取り出すと、静はそれを顔に見立てて鼓を兜に添え義経を偲びます。忠信は屋島の合戦で兄・継信が勇敢に戦った話をして静をなぐさめます。
川連法眼館(かわつら ほうげん やかた)
川連法眼の館に匿われている義経のもとに佐藤忠信が参上します。ところが伏見稲荷で静と初音の鼓を預けたことを知らない忠信。不信を抱く義経。そこへ静御前とお供をしてきた忠信が現れます。
真偽を確かめるために、義経は静かに鼓を打つようにいいます。静は鼓を打ち、現れた忠信に正体が狐であることを白状させます。昔、干ばつでの時に雨乞いのため、千年生きながらえていたという雄狐と雌狐を刈り出し、その皮で初音の鼓をつくり、鼓を打って雨を降らせたという。忠信に化けた狐は鼓にされた狐夫婦の子で、親を慕い、忠信に化けて鼓を持つ静に仕えてきたといいます。義経は親子兄弟の縁の薄い我が身をかえりみて子狐に同情します。親孝行したいという子狐の気持ちに感動して、これまで静を守ってきた功により、子狐に源九郎の名とともに、初音の鼓を与えます。
源九郎狐の喜びはこの上なく、お礼に義経に危機が迫っていることを告げて、鼓とともに姿を消します。
やがて山科の荒法師・法橋坊たちが館に攻めてくるが、源九郎狐の幻術によって制圧される。義経は薙刀を持った法師・横川覚範を呼び止め「平家の大将・能登守平教経待て!」と声を掛けます。刀を交える義経と教経。障子を開けて奥の間へ行くとそこにいたのは幼い安徳帝。驚く教経。帝が母である建礼門院に会いたいと泣き伏すので、教経は帝を抱きかかえて連れて行きます。義経もこの場は見送り、あらためて決戦しようと決めます。
能登守平教経と佐藤忠信、義経との決戦は五段目「吉野山(よしのやま)」で語られますが、歌舞伎では上演されません。